PRECIPICE Multi AAR 3-7 On Whitehouse.

f:id:oldmole1984:20190901053742j:plain

ニクソンウォーターゲート事件で政治的に瀕死の状態にあった頃、私は自由世界を守るために孤軍奮闘を余儀なくされていた。鍵はサブサハラとサウスアメリカだった。サブサハラでは肥沃な中立地帯が徐々に姿を消し、自由陣営と共産陣営の角逐がはじまっていた。サウスアメリカでは焦点はアメリカがこの地域を独占できるか否かにかかっていた。スパイの活躍で、アルゼンチンのペロン大統領がクーデタで政権から追われると、残る共産主義者キューバカストロ議長だけになっていたのだ。

他方、ソ連ソ連で別の問題と思惑を抱えていた。ブレジネフは高齢で、政権は長くないと思われていた。ブレジネフは肉体的に瀕死の状態にあった。彼の股肱の外務大臣グロムイコは共産世界の大義のために忠誠を誓っていたが、後任の書記長が彼をどう遇するかはまだなにもわからなかった。
グロムイコはサウスアメリカでの政治的敗走のあと、またサブサハラが自由世界の寡占に帰したあと、ふたたびビハインドを負ったVP差を逆転するために知恵を絞っていた。彼が目を付けたのは極東だった。

f:id:oldmole1984:20190901053758j:plain

朝鮮半島で自由共産の両陣営の軍事基地が睨みあっている頃、日本で大規模な反政府デモが起こった。グロムイコは極東こそが冷戦外交の中心であるとこの機会をとらえて高らかに宣言した。韓国で安定度低下工作がおこなわれ、この国が政情不安に陥ると、グロムイコの宣言はかなり真実味を帯びることになった。イーストアジアは既にソ連が寡占している。日米安保条約と太平洋条約機構があるかぎり、独占は困難であろう。ではグロムイコの思惑は何だったのか?彼の思惑は、韓国を共産世界とすることで、歴史イベント「タイガー・エコノミー」を達成し、ボーナスVPを得ることにあったと思われる。

f:id:oldmole1984:20190901053813j:plain

この歴史イベントはVP2を達成者に加算してくれる。さらに歴史イベントが消化されることであらたな歴史イベントが生起し、おそらくこのつぎのイベントは「統一国家」だろうが、「統一国家」の条件は東西ドイツ南北朝鮮の統一だったから(そして達成者が得られるボーナスVPは3である)、共産陣営が韓国を入手すれば、合計5のボーナスVPが加算されることになる。現在VP差は自由陣営がサブサハラを寡占したことで11vs9となっていたから、逆転して十二分にお釣りがくるというものだった。
だが私の回顧録で最初に指摘したように、冷戦の結び目が韓国にあるということを私は知っていた。私はこれに対してTURN1で手を打ってもいた。韓国に軍隊を駐屯させる措置をとっていたのがそれである。韓国が政情不安に陥ったあと、グロムイコは侵略やクーデタをためそうとしただろうが、それができないことに気づいたと思われる。彼はこう言った。「韓国から軍をどかしてくれ。」私は断った。「断る。」

f:id:oldmole1984:20190901053830p:plain

TURN37の世界情勢はつぎのようなものだった。

f:id:oldmole1984:20190901053845j:plain

アメリカは自由世界をサブサハラ、サウスアメリカ、そしてサウスアジアに広げ、これらの地域を寡占していた。他方ソ連はアラブリーグとイーストアジアを寡占し、両者は依然として対立していた。だがその対立の内実は冷戦初期とは異なっていた。中立地帯はほとんどなくなり、外交と貿易で勢力差を覆す余地はほとんど残っていなかった。あとは侵略とクーデタだが、これらの手段は核戦争を惹起するため、膠着した状態ではもちいにくい。最後に歴史イベントだが、韓国にアメリカ軍が駐屯し、共産陣営への転向を防いでいる以上、課題をこなすのは困難である。

グロムイコは進退窮まった。病床のブレジネフは彼を詰問したと伝えられている(『グロムイコ回顧録*1)。グロムイコはTURN37に辞任した。

f:id:oldmole1984:20190901053858j:plain

冷戦は永遠に続き、国際政治を規定する枠組になるものと思われていたが、そうではなかった。終わりは突然に訪れた。アメリカでも、ニクソンウォーターゲート事件で失職し、フォードが大統領になったあと、緊張緩和政策を支持するカーターが選挙で勝って大統領になった。ブレジネフもまたその生命の炎は燃え尽き、死んだ。そしてしばらく時がたった後、アメリカではレーガンが大統領になり、ソ連ではゴルバチョフが大統領になった。レーガンの対ソ強硬路線はソ連を自滅に追い込み、ゴルバチョフの新思考外交の末、ソ連は崩壊した。アメリカは冷戦に勝利した。

(終わり)

*1:嘘。そんなこと書いてないよ。