PRECIPICE Multi AAR 3-3 On Whitehouse.

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アメリカは正義と繁栄を世界で実現するべく奮闘する義務がある、とニクソンはかつて大統領就任演説で語ったことがある。
私はそうした目的の実現のためには、手段を選ばなければならないと考えていた。つまり、核戦争を引き起こす可能性のある軍事行動やクーデタ工作ではなく、もっと平和的な、外交交渉や貿易協定や資源援助によって自由主義陣営の勢力圏を拡大させなければならない。ソ連のグロムイコは「ミスター・ニエット」と称される強硬派の外務大臣である。彼とのセッションははじめてで、彼が何を考えているのか、彼が何を望んでいるのか、彼が望むものを手に入れるためにどのような手段を好んでいるのか、こういった問題はいまだ未知の問いであった。
だがTURN5まですすんでくると、グロムイコの性格や手腕は徐々に明らかになりつつあった。彼はクーデタ工作をはじめとする緊急的手段を明らかに好んでいた。しかし緊急的手段が危機を引き起こすことも理解しており、はじめは無難な国から、そして徐々に国益が錯綜する国へとターゲットを移していた。スーダンを最初に選んだのは、この国が共産陣営に囲まれ、クーデタが起こしやすいというだけの理由ではない。(ソ連がすでに寡占している)アラブリーグに属し、自由主義陣営と共産主義陣営の勢力均衡にあまり大きな影響を与えないからだ。彼ははじめ無難な国から手をつける。
続いてソマリアの共産クーデタにソ連が着手したとき、ここがサブサハラに属することから、私は若干の懸念を抱いた。だがニクソンも私も強硬に抗議することはしなかった。サブサハラは広く、中立国がおおい。一つの国を失うことが決定的な問題になるとは限らない。核戦争で人類を滅亡に至らしめるよりは、そして危機をエスカレートさせて同盟国の離反を招くよりは、自制したほうが国益に適うと言えるだろう。
序盤の最終局面で彼がクーデタ工作を行ったのは、タイ王国だった。この国はイーストアジアに属し、中立国である。イーストアジアはサブサハラと違って中立国が少なく、米ソの勢力が均衡している。タイがソ連の手におちれば、イーストアジアは共産陣営に寡占される。それはVP2に相当する。少なくない代償を伴う。最初、お定まりの手段としてタイ王国で政情不安がおこったとき、ニクソンはさすがに抗議しようと身構えた。政情不安から安定度低下工作がはじまり、十分に安定度が低下したところでクーデタがおこることは自明のことだったからだ。だが最初に黒電話を鳴らしたのは、ブレジネフのほうだった。

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ブレジネフはタイ王国に特別な興味を抱いている、と彼は言った。それは嘘ではなかっただろう*1。タイは軍事クーデタが多発する国で、歴史的にクーデタを許容する政治文化がある。これもロシア人の独断や偏見ではなく、事実問題である。最後にブレジネフはこう言った。「したがって私たちはタイ王国で起こるクーデタを許容しなければならない*2」。ニクソンは返答に困って例のごとく私を見やった。私は黒電話をひったくると、次のように言ってやった。「歴史的に、ということならば、ベトナムはかつて一つの統一国家だった。私たちが南ベトナムを支持して軍事行動を起こしても、あなたは抗議しないということだね?*3」。

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ソ連側の答えは傑作だった。

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ブレジネフとグロムイコの戦略はここに至って明らかになった。つまるところ彼らはタイでクーデタ工作をすることの冒険性を理解していて、私たちにタイ王国での対抗クーデタを唆すことによって核戦争を回避しようとしていた。ドミノ理論で共産陣営に有利な地政学的位置にあるタイ王国の情勢からして、対抗クーデタ合戦になって損をするのは自由主義陣営である。したがって私はベトナムを自由陣営のもとに武力統一することをソ連は容認するのかと問いただすと、ソ連側の返答はどちらともとれる曖昧なものだった。彼は自分では言質を与えず、相手からはクーデタ容認の言質をとろうとしている。グロムイコは信用できない男だが、明らかにタフ・ネゴシエーターである。手ごわい相手だ。

タイ王国を巡る交渉は長引いた。そのあいだにソ連はタイへの安定度低下工作を順調に進めていた。はじめ良好(安定度3)だったタイ王国の治安は、のちには見る見る悪化した(安定度1)。だがそうした時間稼ぎはソ連側にだけ有利なものではなかった。TURN9に至って自由主義陣営にとって有利な進捗がいくつか生まれた。一つはアメリカがソ連に次いで人工衛星を飛ばすことに成功したのであり、これはカウンタースパイを容易にするという意味で今後の米ソ両陣営のクーデタ工作を若干困難なものにするはずであった。そしてもう一つは、最序盤に周辺各国と締結した貿易協定が満期を迎えたことだった。日本、中国、インド、サウジアラビア、そしてメキシコで貿易協定が満期を迎え、中国とインドが中立化した。ソ連側は貿易の強力さに驚いたようだった。

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(続く)

*1:今回のマルチプレイの相手はタイ王国の中国系タイ人で、イギリス留学予備校生である。

*2:ゲーム上では、彼はこう言ったのである。「we need more coups in Thailand.」

*3:ゲーム上では、私はこう言ったのである。「if you like histrical, i can iinvade Vietnam?」