PRECIPICE Multi AAR 3-1 On Whitehouse.

これはPRECIPICEというPCゲームのマルチプレイのAAR(After Action Report)です。

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国務長官としてのキッシンジャーと、ハーバード大学教授としてのキッシンジャーとのあいだには、何の差異もなかった。

私がニクソン大統領に招聘されてアメリカ合衆国国務大臣となったとき、アメリカとソ連は世界の覇権を賭けての闘争のさなかにあった。
世界情勢はおおよそつぎのようなものだった。主戦場のヨーロッパではチャーチルの言う「鉄のカーテン」がシュテッティンからトリエステまで降ろされ、自由主義陣営の北大西洋条約機構共産主義陣営のワルシャワ条約機構が東西に分裂したドイツを中心点として睨みあっていた。アメリカはマーシャルプランで地中海の東方、ギリシャとトルコを自由陣営に取り込み、そこからペルシャ、アフガン、そしてパキスタンとつづくサウスアジアを寡占している。共産陣営は中国の共産革命とインドの社会主義憲法によってアジアに強烈な存在感を示しているが、イーストアジアもサウスアジアも寡占しているわけではない。むしろ共産陣営にとって重要なのは中東イスラム圏で、リビアを中心として、シリア、イラク、エジプト、アルジェリア、マリといったバース党政権によってアラブを寡占している。自由陣営はアジアでは日本と韓国、オーストラリアといった環太平洋諸国を同盟国として保持している。米ソ伯仲のラテンアメリカにおいては、キューバカストロ議長とアルゼンチンのペロン大統領が深刻な共産主義者として振舞っているが、ブラジルやコロンビア、ベネズエラエクアドル、メキシコといった他の諸国は自由陣営の友好国である。最後に鍵となるサブサハラだが、ここはいくつかの国が自由陣営や共産陣営の友好国であるほかは、ほとんどが米ソにとって肥沃な処女地(中立国)となっている。

ホワイトハウスにはいって私がやったはじめての政策は、朝鮮半島南部に米軍を駐留させることだった。朝鮮半島はかつて金日成による朝鮮戦争の舞台となった地点であり、自由陣営にとっては脆弱で、必ず保持されなければならない要所であった。さまざまな観点から韓国は東西冷戦の結び目であり、それは私のほうからもう一度説明するが、共産陣営の手におちてしまうと自由陣営にとっては決定的打撃となるのであった。それは工業製品を産出する同盟国日本の安全保障が危機的になる、という意味だけのことではない。だがこの問題を詳述するのはのちに譲ることにしよう。
私の懸念は、軍事行動はそれがたとえ同盟国への防衛的軍事行動であれ、相手側の挑戦が可能であるということだった。つまりソ連は抗議できるのだ。韓国はたしかに冷戦の結び目ではあるが、そこへの派兵は世界を核戦争の危機に晒してまで価値ある行動だろうか?私は然りと答えたかったが、民主政権における世論は否と答えるかもしれない。ソ連が強硬な姿勢を示してきた場合、アメリカは早期に派兵を取りやめる決定を下すということを、ニクソンは私に通告していた。ニクソンは核戦争と、その恐怖からくる同盟国の離反を怖れていたのだ。
だが私には勝算があった。いまはまだTURN1である。朝鮮半島の問題が激しい論争の火種になったのは過去のことであり、かつ、激しい地政学的闘争の火種になることは未来のことである。相手はまだ韓国の重要性に気づいていない。ソ連のブレジネフ書記長もグロムイコ外務大臣も、アメリカによる韓国への軍隊派遣がもつ戦略的意味を十分理解してはいないだろう。ならば核戦争を避けたいと願うのは、また危機からドロップすることで同盟国の離反を避けたいと思うことは、ソ連側も同じである。ソ連は我々の行動を無視するであろう。

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そして私の予想通り、ソ連側はアメリカによる韓国への軍駐屯に抗議しなかった。その代わり彼らは対抗して北朝鮮に軍を駐屯した。ニクソンも私も、それを黙認した。北朝鮮は私たちにとって重要ではない。重要なのは、韓国をがっちりと保持することだったのだ。